【法廷ライブ SS元船長初公判】(7)
《約10分間の休憩中、長いすの被告人席に座る環境保護を標榜(ひょうぼう)する米団体「シー・シェパード(SS)」元船長、ピーター・ジェームス・ベスーン被告(45)は後方の弁護団を振り返り談笑していた。弁護団側から「Hot」という単語が聞こえる。どうやら法廷内が暑いという話をしているようだ。ベスーン被告の表情からは、リラックスした様子がうかがえる》
《午後2時16分、多和田隆史裁判長が再開を告げ、検察側の男性証人が法廷内に姿を現した。黒っぽいスーツに青いネクタイ姿の証人は、やや足早に証言台に向かった。証人は事件当時、第2昭南丸に乗船していた32歳の船員だ。偽証しないことを宣誓する証人を、ベスーン被告がじっくりと見つめている》
裁判長「通訳が入っているので、質問の通訳が終わってから答えてください」
証人「はい」
《それまでのイヤホンを通じた同時通訳から、一つの発言ごとに区切って通訳する方式に切り替えられることになった。検察官が立ち上がり、証人に質問を始める》
検察官「あなたは第2昭南丸に乗っていましたね?」
《女性の通訳が始めようとしたとき、おもむろに被告が声をあげる》
被告「Excuse me」
《法廷内が静まりかえり、視線が一斉にベスーン被告に注がれる。ベスーン被告は同時通訳の音声が流れる左耳のイヤホンを指しながら、通訳にボソボソと訴えかける》
《通訳が「これはもう使わないんですね?」と確認すると、ベスーン被告はおもむろにイヤホンを外した。検察官はもう1度、同じ質問を証人に投げかけた》
検察官「あなたは第2昭南丸に乗っていましたね?」
証人「はい」
検察官「日本時間午後11時ごろ、被告はゴムボートに乗って接近してきましたね」
証人「はい」
検察官「被告は第2昭南丸の左舷に接近して、ゴムボートからランチャーで何かを撃ちましたね」
証人「はい」
《証人の声がわずかにかすれた。ベスーン被告は手を前に組みながら、通訳の言葉に耳を傾ける》
検察官「あなたはどこにいましたか」
証人「左舷のボートデッキに上がる階段の前にいました」
検察官「どうしてそこにいましたか」
証人「SSの人たちが船に飛び込んでこないように警戒してました」
検察官「どういう装備で警戒していましたか」
証人「防護ヘルメット、手袋、カッパなどを着て、インパルス銃を担いでいました」
検察官「インパルス銃とは?」
証人「消火器だと聞いています」
検察官「圧縮空気で水を打ち出すのですか」
証人「はい」
《証人は近くに乗組員2人がいて、約10メートル離れた場所に起訴状で顔面を負傷したとされている乗組員がいることを説明した》
検察官「被告がランチャーを撃ったのは目撃しましたか」
証人「はい」
検察官「なぜランチャーを撃ったのだと分かりましたか」
証人「撃ったときの音と、(ランチャーから)赤い煙が見えました」
検察官「被告はどういう行動を取っていましたか」
証人「第2昭南丸に撃ったものが当たり、歓声を上げて喜んでいました」
《ベスーン被告は長いすの背もたれに右ひじを乗せ、上半身をやや右にひねるようにしながら座る。顔は通訳、証人へとせわしなく向けられる》
検察官「何が撃たれたと思いましたか」
証人「酪酸だと思いました」
検察官「そう判断したのはいつですか」
証人「(発射から)1、2秒後です」
検察官「変わったことがあったのですか」
証人「目や顔が痛み、いつものように目が開けられなくなりました。酪酸の異臭が漂ってきました」
検察官「痛み、においを感じてどう思いましたか」
証人「自分の体と目の中に酪酸がかかったと思いました」
検察官「確認ですが、発射から痛みを感じるまでの時間はどれくらいありましたか」
証人「1、2秒ぐらいです」
《検察官は、争点となっている酪酸と乗組員のやけどの因果関係を証言により裏付けようとしているようだ》
検察官「以前も酪酸の異臭をかいだことがありますか」
証人「はい」
検察官「いつ、どういう機会で酪酸をかいだのかを説明してください」
証人「2月11日の前にもSS側から酪酸を投げられました。2、3年前にも投げられています」
検察官「事件よりも前に酪酸を浴びたことはありますか」
証人「ありません」
検察官「誰か別の人が浴びたところを見たことはありますか」
証人「はい。2、3年前に乗っていた船に酪酸が着弾し、酪酸を浴びた人が『ヒリヒリ』するから気をつけろ」と言っていました」
検察官「そうした経験から、事件当時はどう考えたのですか」
証人「自分の顔に酪酸がかかり、ヒリヒリしていると思いました」
検察官「ランチャーが撃たれる前にそのような症状はありましたか」
証人「ありませんでした」
《検察官は酪酸を浴びた後の行動について証人に質問していく》
検察官「その後はどうしましたか」
証人「痛みを我慢できず、船内に入って洗いました」
検察官「船内に入る前のことを聞きたいのですが、周囲にいた人に異変はありましたか」
証人「同じような痛みを訴えていました」
検察官「船内に入ったということですが、当時は甲板で(SSを)警戒する任務をしていましたよね?」
証人「いつものように任務をすることはできませんでした。目も開けられず、顔も痛く、とても任務をすることができませんでした」
検察官「任務を止めて、どうしましたか」
証人「船首の方向に走っていきました」
検察官「(起訴状で負傷したとされている)乗組員は見ましたか」
証人「はい」
検察官「様子は?」
証人「ひざをついてうずくまっていました。酪酸をかぶったと思いました。うなるような声が聞こえました」
検察官「(乗組員の)容体を調べたり、手当をしたりはしましたか」
証人「そこではしていません。自分も酪酸がかかり、自分の顔を流すことが先でした」
《ベスーン被告は手を前で組み、表情を変えずに証人を見つめている》
=(8)に続く
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